説得は通じない
リハビリの仕事をしていると、様々な患者さんと出会います。いや、どのような仕事でも人とは出会うのですが。
この仕事をしていて興味深いのは「良くなりたい」と言いながらも、「このままではいけない」と思いながらも、治療コンプライアンスを守れなかったり、それまでの生活習慣を変えることができないという人間の惰性。
医療者側はしばし正論を押し付けては、説得を試みます。しかし患者さんは良い返事をしつつも、次に受診した際には何も変わっていないということは珍しくないのです。
先日、とある文献を読んでいる時に興味深い言葉がありました。
“行動変容ステージモデルの「準備期」に入っていない症例に対し,患者教育を含む心理社会的アプローチを適応することは困難である”
そして「無関心期」では説得が禁忌であるとまで書かれていました。
堅苦しい文章になってきたので、ここで「行動変容ステージモデル」について簡単に紹介します。
行動変容ステージモデルというのは、人が行動(生活習慣)を変えようとする場合において「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通ると考えます。
詳細は厚生労働省e-ヘルスネットをご参照いただけたらと思います。
話が戻りますが、無関心期の(6ヶ月以内に生活習慣を変えようと思っていない)患者さんに対して、説得は禁忌であるとのこと。禁忌とは「してはいけない」ということです。
「推奨しない」ならまだしも、なぜ「禁忌」なのか?
そこまでは文献には書かれていなかったので、これから書くのは私の考察になるのですが・・・
説得しても中々守れない、変われない場合において残るのは「ダメだった」「できなかった」という不達成からくる自己嫌悪のみです。これは失敗体験として患者さんのモチベーションを下げ、自己効力感を奪います。
ヒトが何かに取り組んだり、チャレンジしようとするエネルギーの根源には「取り組めば変われる」「達成することが自分にはできる」と思える心理状態が育まれているからです。それが専門的にいうと自己効力感と言われるものです。
行動変容を促していくには、この自己効力感が育まれていることが大前提。
それがない場合において、説得することは無意味どころか悪影響を及ぼしかねないのですね。
それでは、自己効力感を育むためにはどのような関わりが大切なのでしょうか?
これは患者さんの話のみならず、子どもの心理発達においても非常に重要なことになります。
自己効力感の発達
難しい課題に直面した時に「頑張ってみよう」と思える子と「無理だ」と諦めてしまう子がいます。その違いが「自己効力感」と呼ばれるものです。
自己効力感とは「目の前にある目標を達成できる力を自身が持てていると認知していること」を意味します。そして、こうした「自分にはできる」という気持ちを抱けるようになるには、以下の4つの因子が影響すると言われています。
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何かを成し遂げたという経験を有すること(達成経験)
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自分の能力やスキルを他者から肯定的に認められること(社会的説得)
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誰かが行動するやり方を見て、「自分にもできるだろう」と思えること(代理体験)
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心身ともに元気で健康なこと(生理的感情的状態)
つまり、自己効力感を育むためには日々の生活の中で、小さなことでもこれらを繰り返し経験していくことが重要であると考えられます。
この4つを見ていただくと、これらは決して自分一人で育むものではなく、周囲の環境や人間関係が重要であることが分かると思います。
例えば、運動会の徒競走で2位になった子がいたとします。一人の子は「1位じゃないと。お父さんはずっと1位だったぞ」と言われ、また別のある子は「2位すごいじゃん!去年よりも速くなったね!」と褒められます。
その両者には達成体験に差が生じてしまうのです。
走るのが苦手でも踊りが得意な子がいたとします。運動会で徒競走がビリだった時に「ビリだったかぁ〜。来年は頑張れ!」しか言われない子もいれば、「ダンスすごく上手だったね!ビシッと音楽に合っててすごかった!」と言われる子もいます。
その両者には社会的説得に差が生じてしまうでしょう。
今回は運動会を例にしていますが、もっと日常に潜む些細な経験の差が自己効力感の形成に影響してくるわけです。
実際に体験した事実が同じであったとしても、周囲の声掛けなどによって異なる経験になるのですね。
こうした日々の声かけによって、自己効力感の育まれ方の差が出てしまうと、それらは将来的に様々な違いを生み出します。
その最たるものが「自ら物事に取り組む力」の差です。
勉強への取り組み方は、将来の学力や就職にも。
スポーツへの取り組み方は、運動を介して得られる体験や肉体的健康にも。
チャレンジ精神があると、自ずと挑戦機会も増えます。それらは多くの失敗を経験させられることもありますが、成功体験ももちろん増えます。そして何より、失敗から立ち直る機会を経験にも繋がります。
失敗から立ち直る機会があると、それらはレジリエンス(逆境から立ち直る力)の形成にも繋がります。(レジリエンスも非常に重要な個の能力ですが、その形成においても述べたように自己効力感や周囲の環境が重要ということです)
少し長くなってきてしまったので、本日はこの辺で終わりにしますが、、
幼少期の子どもの経験を作り出すのは、実際の体験のみならず周囲の大人の声かけです。
保護者のみならず、地域の大人など関わるヒト全てが、子どもの発達に影響するのですね。
なので私たちは声かけを大切にしたいと考えていますし、こうした心理発達について多くの方々に知って頂きたいなと思っているのです。
心理発達についての講座も開催予定ですので、参加していただけたらと思っております。
↓ ↓ ↓
『子どもの脳を守る!適切な関わり方を学び、子どもの非認知能力を育む講座』
<日時>
令和5年10月15日(日)
会場参加:10時30分〜11時30分(定員12名)
※講座終了後は、質問や相談など対応致します。
<場所>
ぷらちなくらぶ1階(駄菓子屋かしづきの下のフロア)
<参加費>
1,000円(当日、会場にてお支払いください)
※参加費は駄菓子屋かしづきの運営費にあてさせて頂きますので、ぜひご参加頂けたらと思います。
<詳細ページ>
http://dagashiya-kashizuki.com/?page_id=745